第8号 1996年9月1日


主な内容
国際的な活動の架け橋に!
宗務総長 大 竹 明 彦

 「SOTO禅インターナショナ ル」が発足して3年余になります が、メンバーも250人をこえて 次第にその地位を確かなものにし つつあることは、まことに喜ばし いことです。

 曹洞宗は「人権・平和・環境」 を柱とした21世紀の教師づく りを進めておりますが、この教化 活動はすべてポーダーレスな国際 化を基盤としたものです。ユニバー サルな視野と規模なくしては成果 は期待できません。その意味にお いても、「SZI」の活動に大き な期待感を持っています。

 SZIでは人材の養成を重点事 業としていますがおおいに賛成で す。とくに曹洞禅が伝播していっ た国の人々による育成が重要であ ろうと考えます。 かつてわが国に 渡来した仏教が日本の民族的な宗 教感情である、祖先を崇拝する信 仰と結ひついて根付いたごとく、 その国や民族の宗教的な欲求と結 合するためには、その国の人の手 によるべきでしょう。

 しかしその前段階として日本曹洞宗 との交流が必要であることは いうまでもありません。このこと に尽力された今は亡き楢崎一光老師 が偲ばれます。

 その意味においてロス禅宗寺を 中心とした、「スタディーツアー」 なとは格好の計画といえましょう。 関係者の先見性を感じます。

 宗務庁においても今後の国際的 な活動の基本教材となる教典の英 訳に着手しました。すでに実際的 な作業に入っており、近い将来に おいてよき伴侶となるでしょう。

 「人権・平和・環境」の問題は、 いずれも日本というローカリズム の課題でありながらユニバーサル な共通の宗教的テーマであります。 国際的な共通の理解を必要として います。今後の活動においてSZ Iがその架け橋となる活動を期待 してやみません。

 今後内外においてSOTO禅イ ンターナショナルの存在を一層ア ピールしたいものです。


「ランプのもとで」
〜聖護寺国際安居参加レポート〜
         SZl事務同 大 谷 有 為

 たった四つのランプの灯り のもとで、聖護寺のミーティ ングは行われる。山内総勢十 七名が長机を囲んで向かい合 う。遠くに座った人の顔はほ とんど見えない。そう、ここ には電気が引かれていない。 ガスもない。蛇口から出てく る水は山の水である。

 確かに、電気のある生活が 当たり前になった現代人にとっ ては、この自然の明るさ(い や、むしろ暗さと呼ぶべきで あろう)と、ふんわりと赤み がかったロマンチックなラン プの灯りは、非常に印象深い。 が、当然生活していく上では 不便さも伴う。 これは、聖護 寺に安居している修行僧とて 例外ではない。

 『坐禅の時はいいが、庫院 はやはり衛生的にももっと明 るいほうがいいのではないか』
 『明るいうちに掃除をすれば よい。自然の明るさを大切に したい』
 『本を読んだり、勉強するの に暗くて不自由だ』
 『根本をとらえるべきだ。人 中心で、明るいだの、暗いだ のと、ものを考えるのはもっ てのほかである』
 『昔は昔。ランプしかなかっ たのだ。今は電気がある。古 にのっとるのは良いが、便利 になったところはどんどん取 り人れていけばいいのではな いか』
 『手間がかかるが、ランプを つければランプのありがたみ が分かる。そして、ここで修 行することによって電気の便 利さも身にしみて良く分かる。 こういった感謝の心をもつこ とが修行であり、すばらしい ことなのではないか』
 『ここでの暗さ、靜けさ、水、 空気、鳥の鳴き声といった自 然とのふれあいは人生の根本 であり、現代社会にはう失われ ているものである。ここだけ にあるものは保持していかな くてはならない』

 この活発で意欲あふれる議 論を構成しているのは、日本 語だけではない。英語、スべ イン語、ポ ルトガル語 までもが要 素になって いる。実は、 顔をつき合 わせていた 17名の内、 9名は外国 人の修行僧 なのである。

 このような ミーティン グは、無論 本山のよう な大きな僧 堂では考え られない。

 修行僧の国 籍に加え、自然環境や僧堂の 規模といった物理的な違いは もちろんあるのだが、それだ けではないようだ。

 ここで、聖護寺について少 し触れさせてもらおう。熊本 県菊池市の山中に位置する聖 護寺では、毎年五、六、七の 3ヵ月の夏(雨)安居の期間 『国際安居』と称して、海外か ら安居者を受け人れている。

 『電気もガスもない山中の国際 禅道場』まさしく、この語に 聖護寺のスベシャリティーが 集約されている。

 今回、5回を迎える国際 安居に、6月10日から15日 のわずか6日間の期間ではあっ たが、特別に参加させていた だいた。世界各国から聖護寺 に集まる外国人の修行僧は9 名を数える。これに愛媛県の 瑞応寺から、ここに詰めてい る日本人の修行僧6名、講師 の先生3名がこれをサポート する。

 聖護寺を訪れると、まず山 門にたどり行くまでに、途切 れることなく視界に人ってく る山々の緑の色の濃さに驚嘆 の声をあげずにはいられない。 そして、太陽の光とランプの わずかな灯りだけで生活する ことにより、夜から朝へ、昼 から夜へと移り変わる瞬間を 体感し、言 い表すこと のできない 感動を覚え るのである。

  発心して 海を渡って きた外国人 の修行僧の 目的意識は 明確である。 自己の修行 を深めるこ と、そして、 僧堂生活を 通して日本 の伝統禅を 学ぶことで ある。

 質問を投げかけてみると、ほとん どの人がこう答えた。彼らと 寝食を共にし、コミュニケー ションをとり、また坐禅・作 務・飯台・法要といった弁道 修行を通して、その意識の高 さを感じ取ることができた。

 さらに、その態度のまじめさ もさることながら、学習意欲 の貧欲さにはことのほか驚か された。本山同様、いやそれ 以上の差定をこなしながらも、 出てくる不満は、もっと勉強 する時間が欲しい、自国語に 翻訳されたテキスト(仏典、 経典等)が欲しい、といった ものであった。

  現化の宗門においては、寺 院の子弟の多くが本山安居に おいて、住職になるための資 格の取得ということをまず第 一に考えてしまうのは、否定 できない事実であろう。つま り、目的意識において日々の 弁道精進より、一定期間本山 に籍を置くことのほうに主眼 が向いてしまうのである。

 先に述べたミーティングでも感 じた聖護寺の特異性は、修行 僧の目的意識の差異に基盤が あるようだ。そして、国際安居 は、海外への曹洞禅の仏道 の基礎の一端を担っているだ けでなく、日本の宗門の僧侶 にも確実に刺激を提供してい る。この刺激の主な供給先は、 我々若い僧侶にほかならない。

 海外においても、曹洞禅 の需要は多大であり、求道心 を持つ者も世界各国から集ま るのである。それに応じ、答 えていくこと、そしてさらな る曹洞禅の流布に力を注いで いくことは、我々に課せられ た義務である。


サンフランシスコ禅センター
禅ホスビスブロジェクト事情

 会報第5号クローズアップ・コーナーで、北米開教総監徒 弟・コロナ智光師の仏道修行とホスピスでの看護について の記事を紹介しました。智光師は、「坐禅によっていかされ ている」自分を自覚し、死を迎える人たちやその家族と向 き合いお世話していることを述べられています。

 今回は、サンフランシスコ禅センターが組織として行っ ている禅ホスピス・プロジェクトについて紹介致します。 米国では、一九七三年にホスピ ス(末期患者のための病院)が設 立されてから、現在では二千以上 のホスピスが数えられるというこ とです。

 毎年百以上の新しいホス ヒスが認可され、ビジネス産業と して成長していますが、看護自体 が事務的になり、精神的な心のケ アがおるそかになってきていると いう指摘があります。

 そんな中、故鈴木俊隆師が創立 したサンフランシスコ禅センター では、一九八七年に禅ホスピス・ プロジェクトがスタートしました。

 一九九二年二月には、非営利法人 として認可され本格的に動き出し ました。運営は理事会によって行 なわれ、広く地域社会で活躍して いる専門家や、禅センターの実践 指導者によって構成されています。

 このプロジェクトが設立されて 以来、国家の補助金は直接受け取 らず、代わってサンフランシスコ 財団、ユナイテッドウェイ、スレ ショールド財団などの財団や地域 社会や会社などが、運営資金の大 部分を援助してきました。

 また、禅センターが経営しているゴール デンゲート・ブリッジが一望でき る菜食上義レストラン「グリーン ズ」での夕食会や、特別ワークショッ プなどのイヴェントを行なって、 かなりの資金を調達しています。

 そして、多くの優れた専門家たち が、ワークショッブのプログラム のための時間を提供しています。 運営は、非常に米国的で、地域社 会を含め多くの人たちに支えられ ています。

 ホスピスは、元来中世ヨーロッ パで宗教的実践として発達しまし た。キリスト教の教えに基づき、 修道士が「自己完成の道」として の修行として、騎士の最後を看取 ることが課せられたのです。自己 を捨て、他に奉仕する精神が強調 され、内面的な「自己変革」を目 指したのです。

 このようにキリスト教では、病人や死んでいく人た ちへの奉仕の実践行として発達し てきました。 一方仏教では、死 というものを見つめること、無常 を感じることを教えてきました。

 人が死んでいくその死というもの を憐れむのではなく、生まれ、老 い、病み、死んでいくのは「人の 自然な道」と見ました。釈尊は、 執着を離れることの喜びを教え、 死というものを見つめることによっ て刹那主義でなく、今ここに存 在できることの有り難さをしっか り味わうことを教えています。

 SF禅センターの禅ホスピス・ プロジェクトでは、キリスト教の 奉仕精神と、仏教の観無常の教え と瞑想の実践の二つの伝統をうま くプログラムに取り入れました。 ここが他のホスピスとは違う点で す。

 禅ホスピス・プログラム

(1)ゲストハウス(在宅用住宅施設)・プログラム
 サンフランシスコ禅センターの そばに、復元したヴィクトリア調 の美しい住宅をホスピス施設にし ています。4部屋の小さなホスピ スですが、24時間体制で、訪問 看護や、カリフォルニア・パシ フィック医療センターのサンフラ ンシスコ・ホスピスと提携してい ます。年間三十人の収容が可能で す。

 このゲストハワスにへる患者は、 ガン患者や同性愛者のエイズ感染 者などで、住所不定のため当然受 けられる政府の援助が受けられな い人たちです。つまり、この禅ゲ ストハウスはそれらの問題を解決 するために、住所を与え、訪問看 護や、初歩的な治療などのサーヴィ スが受けられるように作られたも のです。政府としても、一つの場 所で、何人もの患者を見ることが できるため、治療のコストダウン につながり奨励しているようです。

 また、ここでは、宗教、性別、人 種、年齢など関係なくサーヴィス が受けられます。

(2)ラグナ・ホンダ・ ホスピス・プログラム
 ラグナ・ホンダ 私立病院にはホス ピス・ユニットが あり、28のベッ ドがあります。こ こは、米国でも一 番長期間にわたり 治療のできる施設 であり、サンフラ ンシスコのモデル でもあります。

 ここでは、禅ホスビ ス・プロジェクト と提携しており、養成されたヴォ ランティアの人たちが活躍してい ます。内科医をはじめ看護婦、ソー シャル・ワーカー、行動臨床医、 付添い人、宗教家などからなるチー ムが構成され、治療が行なわれて います。

(3)教育プログラム
 ホスピス・ヴォランティアの養 成という教育プログラムを提供す ることも大事な仕事です。ホスピ ス・プログラムのディレクターで あるフランク・オスタスキー氏は、 「家族の粋が強い場合でも、ヴォ ランティァだからこそ可能なこと は意外にも多いものです。患者か ら聞く悩みには、家族に言えない 内容のことも少なくありません。

 また、家族が、心身の休養を取れ るようにすることもヴォランティ ァの役割です」と述べています。 そして「ヴォランティアは、いつ でも患者の話に耳を傾けるように しなければならない」と強調しま す。

 禅ホスピス・プロジェクトのヴォ ランティア養成は、カリフォルニ ア州看護婦協会の認可を受け、包 括的なものです。瞑想を取り入れ たプログラムの基本は、マインド フル(心に留める、気づき、注意) というごくシンプルなものです。 患者の話を親身になって聞くこと や、おしめを替えたり、食事の支 度をしたり、背中をこすったりす る日常の行動の中で、瞑想の中で 養った心の寛大さ、マィンドフル ネス、そして心の平静さと言うも のを看護に生かすのです。

 禅ホスピス・ケアの目的はそれ ぞれの人生の道程を人間としての 尊厳と大切な人間関係を保ちなが ら、人生の終末を迎えた人を介護 し、心安らかに死へと移行してい くことです。つまり、可能な限り、 快適な意味のあるものになるよう に、患者と家族をお世話すること です。

 SF禅センターの禅ホスピス・ プロジュクトをレポートしてみて、 宗教が果たす役割というものを改 めて考えさせられました。
(文責 編集人)


海外だより

故前角博雄師壱周忌法要

 6月7日(金)午前11時より 東京プリンスホテルに於いて、故 前角博雄師の壱周忌が総持寺副貫 首・余語翠巌老師の導師のもと執 り行われた。その席で、長男・純 道師が叔父にあたる桐ヶ谷寺住職・ 黒田純夫師より得度を受けられた ことが報告された。

北米バークレー好人庵便り
北米開教師 秋葉玄吾

 3月11日よ り5月19日まで10週間のRRACTICE PERIOD(制中)を設け、種々 行持を修行しました。最後に絡子 縫いをし、縫いあげた十人の人に 正式のプッディスト(仏教徒)に なってもらう在家得度式をし、安 名を与えました。ようやっと好人 庵も少しづつですが形をなし、歩 みを一歩進めたようです。

ドイツ「大悲山普門寺」 オーブニングセレモ二ー

 ドイツ曹洞宗開教師・中川正寿 師は、欧米全体を視野に入れた上 で、永年にわたって叢林機能と研 修センターの機能を兼ね備えた寺 院建立に熱意を注いできました。 そして、この度ようやく写真の物 件を購入し、左記のとおり落慶法 要を挙行する運びとなりました。

 来欧される方がおられましたら是 非参加して頂きたいと思います。 南ドイツ・バイエルンのゆったり した自然を満喫いただけるでしょ う。また市川師は、若い僧侶の方 で半年でも一年でも滞在し、国際 体験を志そうとしている人を受け 人れて下さるとのことです。

日時 1996年10月12日
会場 ドイツ・アイゼンプッフ
  大悲山普門寺   (ミュンヘン空港から車で   約45分)
Tel 001-49-89-6111095 F.S.Nakagawa


第10回世界宗教者平和の集い
1996年10月7日〜10日 テーマ「宗教と平和」

会場 イタリヤ
主 催 聖工ディジオ共同体

SZl総会報告

 去る五月八日(水)午前九時よ り、一九九六年度SZI総会が全 国より参集した会員の皆様ととも に岐阜県高山、正宗寺において開 催された。

 この総会に先じて、松永然道会 長導師により本尊上供、海外開教 師示寂者追悼会が正宗寺本堂にて 行なわれ、引き続き客殿にて篠田 一法師の開会の辞により総会が始 められた。

 最初に、松永然道会長から「年々 会員数も増え、それと共にSZI に対する期待と責任も増してきま した。今後さらに宗門国際化の一 助を担って努力していきますので、 会員皆様のより一層のご理 解ご協力をお願い致します」 と挨拶、そして事務局一任 により加藤孝正師が議長に 指名され議案が討議された。

 事務局より一九九五年度 の事業報告、会計報告、そ して会計監査報告がなされ、 満場一致で承認された。

 次に一九九六年度の事業計画 案、会計予算案が事務局か 提出説明があり、これも 満場一致で承認された。

 また、会計年度を現行の 四月一日から翌年三月三十 一日までを一月一日から同 年十二月三十一日に変更し たいとの説明と提案が事務 局よりされ、全員意義なく これを承認し、会則の一部 変更と共に本年度は三ヵ月 短い12月31日で年度末を迎え ることが付け加えられた。

 午前11時前に滞りなく総会は 無事閉会となりました。

 さて、この総会に先立ち、前日 の(7日)夜7時から岐阜県山丹 生川文化ホールにて、岐阜県高山 正宗寺住職・原田道一師が代表で あるワン・ボワルネットワーク主 催による「地球に感謝する集い」 が開催され、そのあと親睦会が九 時過ぎからニ時間 旅館四反田 (したんだ)にて行われた。

 SZI会員と「地球に感謝する集い」 に協力して頂いた出演者やスタッ フの方々と楽しく有意義な高山で の夜を過ごしました。


Return